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農業書センターで選んだ本① 『ものと人間の文化史 桃』

  • 執筆者の写真: 日本農業経営大学校 小野ゼミ
    日本農業経営大学校 小野ゼミ
  • 2019年3月27日
  • 読了時間: 3分

お久しぶりです。もうすぐ2年になる6期の網倉です。

いま僕は山梨の実家に里帰りしてます。畑の桃の花は写真のように膨らんできて、摘蕾の作業が始まっているところです。


先日、といってもだいぶ前になりますが、ゼミ活動でお邪魔した神田の農業書センターで購入した本について今回は書きたいと思います。丸々一冊桃の本です。


『ものと人間の文化史 桃』 有岡利幸 著、法政大学出版局、2012年


いわゆる農法にまつわる本というよりは、桃という果物の文化史について書かれたものです。桃は中国原産ですが、日本には縄文時代にすでに渡来しており、古くから親しまれている果物と言えます。

甘い果物として一般に食用されるようになったのは最近ですが、薬用や観賞用としては昔から知られており、特に薬としての強い効能は特筆すべきものがあったようです。女性のお産に関わるものからオコリ、歯痛など多岐にわたるため、桃には神秘的な力(特に女性や命の誕生にまつわる)があると信じられてきました。



そんな桃の神秘性を象徴するのが、日本人なら誰もが知る昔話『桃太郎』です。桃太郎は室町時代ごろに発生したと言われており、日本全国にさまざまな形式で派生していったようです。冒頭で桃が川から流れる時の、「ドンブラコドンブラコ」という印象的な擬音にも全国的に派生があるそうです。


東北は「ブンブクブンブク」

関東は「ドンブラコッコ スッコッコ」


といった具合です。そう言われてみれば、自分も小さい頃聞いた擬音は「ドンブラコッコ ドンブリコ」だったような…。これだけでも熱い議論が巻き起こりそうですね。


桃太郎の生まれ方もさまざまです。桃から出てくる型はおなじみですが、桃を食べて若返ったお爺さんとお婆さんの間に子供ができる、という若返り型も知られています。これは僕が子供の頃TVで取り上げられ話題になりました。先ほど書いたように、桃には女性のツワリを抑えるなどの効能が知られていました。若返り型には命の誕生に関する桃の不思議な力が反映されているのかもしれません。

さらには、鬼退治に行かずに宝を掘り当てたり、はたまた鬼を倒すだけでは飽き足らず目玉を引っこ抜いた(⁈)という、およそ子供には聞かせられないエピソードまで…。


しかし、それだけ派生したということは、裏を返せばそれだけ日本人に親しまれたということです。実は戦前の日本の教科書には桃太郎が載っていたと言います。勧善懲悪の正義の戦士である桃太郎は日本人の理想的な若者像として捉えられていたのでしょう。

ですが、太平洋戦争が始まると少しずつ雲行きが怪しくなっていきます。倒すべき鬼の姿は、軍国主義の手によって敵国である欧米の兵士にすり替えられ、正義の戦士である桃太郎は、報国の戦士に変貌したのです。日本人に親しまれた昔話『桃太郎』はまんまとプロパガンダに利用されるという憂き目にあいました。もちろん戦後桃太郎は教科書から姿を消しています。


本では触れられていませんが、『桃太郎 海の神兵』というタイトルでアニメーションにもなったようで、戦時下に作られたプロパガンダ映画として知られています。皮肉にもアニメ大国日本の最初の長編アニメーションでもありました。


面白いエピソードは枚挙に暇がありませんが、読み返すたびに桃の魅力(魔力?)に気付かされる本でした。この本は「ものの文化史」というシリーズになっており、食べ物から何気無い道具まで幅広いテーマで何冊も書かれているのでとても興味深い叢書でした。

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