リンゴにまつわる音楽の話
- 小野ゼミ ブログ更新係
- 2018年12月26日
- 読了時間: 3分
6期生の網倉です。ブログ記事と言われても身近にそんなに書くことがないので、果樹農家なので自分の趣味と絡めてリンゴにまつわるアルバムレビューを書きます。
農業と所縁のある作品は多くないので多分これが最初で最後になると思いますが…
↓ ↓ ↓
アーティスト名: The Washington Apple
アルバム名: Fresh Country Apples
A1 Fresh Country Apples
A2 Applecore-Baltimore
A3 Little Green Apples
A4 Colusa County Trees
A5 Sunlight
B1 Summertime
B2 Blues For J
B3 Another Day
B4 Ode To Cory

1968年にビートルズがレーベルにあしらい始めたマークに代表されるように、リンゴという果物はポップスの世界においてある種のアイコンのような役割を果たしてきた。そもそも古くからとかく象徴的な扱いを受けているためかアルバムジャケットに登場する機会は比較的多い。
Fresh Country Apples(1970年、写真中央)はアメリカの中央ワシントン出身のローカルバンドであるThe Washington Appleが残した唯一のアルバムであり、数ある「リンゴアルバム」の中でも特に農業的意味合い(?)の強い一枚でもある。元は、シアトルのラジオ局が地元の名産であるリンゴのPRを企画し、中央ワシントンで音楽活動をしていた彼らがその音楽を担当したことがきっかけであった。
ワシントン州はアメリカの膨大な食を支える一大農業地域で、特にリンゴの生産高は長年国内1位を保っている。メンバーの若者たちも地元のリンゴ農家で働いた経験があり、歌の端々からいなたい農園の雰囲気がうかがえる。実際のCM曲は非常に評判が良かったということで、おそらくはバンドに対する半ばご褒美的に一枚のLPとして制作されたということも考えられる。ちなみにレコードをプレスしたのは地元のレーベルで、その名も「デリシャスレコード」である。いやはや。
サウンド面ではサイケとして一貫しているものの、来るべき70年代AORを予見したジャズロックの様相もうかがえるA面と、60年代の典型的サイケデリックブルースを展開するB面とで、両者の趣向は全く異なっている。A面にリンゴ関連の歌が集中していることを考えると、アルバムの前半でラジオの仕事の成果を披露し、後半で普段メンバーたちの志向するブルース系を詰め込んだという具合だろう。それなりに割り切ったつくりとなっていると考えていい。
全体的な歌は女性ボーカルであるJanette Marbleが担当しているが、所々で男性のコーラスが入るという構成は、Jefferson AirplaneやBig Brother And The Holding Companyといった当時の主要バンドと同じである。アルバム自体に欠ける統一感をカバーするほどの際立った個性を期待するのは酷というものだが、軽快なものからアシッドまでこなしているので飽きずに聴けてしまう。
AORなオリジナル曲もさることながら、フォークロックの大御所The Youngbloodsの名曲A5(Jesse Colin Youngのソロライブ盤でも披露されている)のカバー曲も非常に興味深い。The Youngbloods本人たちも71年のライブ盤でスムースジャズに接近していることを思えば、一足早く本作でジャズ系アレンジを発表していることに驚かされる。A2は小品ながら軽快なディキシーランドジャズで、A3はジャズスタンダードとしても知られる古きよきアメリカンポップスである。
B面からは一貫してブルースが続く。中でもB1はかのGeorge Gershwinによるスタンダードである。ブルースとしてJanis Joplinが完成させたといっても過言ではない一曲だが、このアルバムではJanisほど情熱的ではないにせよ、重たい後半の展開の導入として完璧な働きを見せている。6分を超えるスローブルースのB4では、ギターのRobert Aldrichがここぞとばかりにブルースギターを泣かせてアルバムが終わる。
最近やっとCD化されたということで、アルバムとして何かずば抜けたものがあるわけではないが、「ロック音楽が地元農産物のPRとして使用されたケース」という独特な制作の背景があるため、ロック好きだけでなくむしろ一部の農業者にもちらほら知られていることもある作品だ。実際、農業実習でお世話になった農家の方がこのLPを知っていて驚いたこともあった。
6期生 網倉 泰介
Comentarios